日本では高齢化が進み、介護老人保健施設(老健)で働く看護師のニーズが高まっています。
しかし、病院勤務とは環境が異なるため、「自分は老健に向いているだろうか?」と考える看護師も多いでしょう。
本記事では老健で働く看護師に求められる資質や仕事内容を詳しく解説し、あなたが老健に向いているかどうかを判断するヒントをお届けします。
目次
老健で看護師に向いてる人の特徴とは
介護老人保健施設(老健)では、高齢者の健康管理やリハビリが重視されるため、ゆったりとした環境でじっくり働きたい看護師に向いています。
老健で働くのに適した人は、高齢者のケアに興味がある人、穏やかな対応が得意な人です。
また、老健は看護師の他にも介護職やリハビリ職が協力して働くチームです。
多職種と密に連携するため、コミュニケーション能力や協調性の高い人も活躍できます。
以下では、老健看護師に向いている具体的な特徴を見ていきましょう。
高齢者看護・リハビリに興味がある人
老健の利用者は主に高齢者で、退院後に在宅復帰を目指してリハビリに取り組んでいます。
そのため、高齢者の生活支援やリハビリサポートに興味がある人は老健看護に向いています。
具体的には、患者さんや利用者さんに対して、生活習慣に合わせたケアや運動機能の維持・回復を支援したいと感じる看護師が老健で力を発揮できます。
コミュニケーション能力が高い人
老健では看護師、介護士、ケアマネジャー、理学療法士など多職種のチーム医療が行われます。職種を超えて情報共有や連携を行う必要があるため、コミュニケーション能力が高い人は現場で適応しやすいでしょう。
また、高齢者との会話ではゆっくりとした言葉づかいや表情を用いて安心感を与える対応が求められるため、相手の気持ちに寄り添えるコミュニケーション力も重要です。
穏やかで落ち着いている人
高齢者は認知症による興奮や不安を抱えやすいため、看護師には穏やかで落ち着いた対応が求められます。
テキパキと仕事をこなすことは大切ですが、入居者に安心感を与えるためには柔らかい表情やゆったりとした話し方が効果的です。
穏やかな性格をもつ人は、老健の利用者がリラックスして過ごせる環境づくりに貢献できるでしょう。
協調性が高くチームワークを重視できる人
老健は看護師だけでなく介護士や理学療法士、医師、ケアマネジャーなど多くの職種が一丸となって利用者を支えます。
ひとつの施設で様々な専門職が連携して利用者の在宅復帰を目指すため、一人で業務を抱え込むのではなく協力し合える人が向いています。
チームメンバーと信頼関係を築いてお互いの情報を共有し、介護計画や医療的ケアを調整できる協調性のある看護師ほど、老健での業務がスムーズに進みます。
介護老人保健施設(老健)の役割・特徴
介護老人保健施設(老健)は、病院と自宅の中間的な役割を果たす介護施設です。主に退院後の高齢者が在宅復帰に向けてリハビリや生活支援を受ける場所であり、医療ケアと介護が組み合わされた環境である点が特徴です。
施設では看護師や介護士、リハビリ担当者、医師、ケアマネジャーなど多職種が連携し、利用者一人ひとりの回復目標に向けたケアプランを共有します。
在宅復帰支援を目的とした施設
老健の最大の目的は、利用者が機能回復を図りながら自宅に戻ることです。多くは短期間(数ヶ月)の入所を前提とし、その間にリハビリや日常生活動作訓練を行います。
適切なケアを提供することで利用者の在宅復帰をサポートし、自宅での生活を継続できる状態へ導くことが重要な役割です。
病院と自宅の中間的な役割
老健は「病院」と「自宅」の中間的な存在です。高齢者が病院で治療を終えた後、直接自宅へ戻る前に老健で生活リズムや体力を整えます。
急性期病棟の慌ただしさはなく、緊急対応が少ないため、病院勤務から転職した看護師にとっては働きやすい環境ともいえます。
老健と他介護施設の違い
似た介護施設には「特別養護老人ホーム(特養)」がありますが、老健との大きな違いは「在宅復帰を前提としているかどうか」です。
特養は終の棲家として長期入所が中心になりますが、老健は基本的に在宅復帰を目指し、3~6ヶ月ごとに退所審査が行われます。
このほか、老健にはリハビリ専門職が常駐しているため、医療ケア面でも特養より手厚い環境が整っています。
老健の看護師の仕事内容と1日の流れ
老健で働く看護師の業務は、利用者の健康管理や生活サポートが中心です。具体的には、バイタルサインの測定や服薬管理、褥瘡(じょくそう)の予防・処置、感染症対策などの看護業務を行います。
また、入浴や排泄といった介護業務のサポートも看護師が関わることがあります。他には、利用者や家族からの相談対応や、ケア計画書など書類の記録・管理も重要な仕事です。
日常的な健康管理と服薬サポート
日中は利用者のバイタルチェックや服薬管理が中心です。血圧や脈拍、体温の測定を定期的に行い、異変がないか確認します。
服薬ミスを防ぐための服薬管理も看護師の重要な仕事です。
また、入居者が日常生活を安全に送れるよう、全身状態や生活動作の変化に気を配り、早期に異常を発見して医師へ報告できる環境を整えます。
リハビリや生活支援のサポート
老健では理学療法士や作業療法士がリハビリを行うので、そのサポート役として看護師も関わります。
運動器リハビリの進捗や運動耐力を確認し、必要な医療処置(点滴や酸素管理など)を行います。
また、日常生活支援では入浴介助や排泄介助など、身体介助が介護士中心ですが、看護師として医学的視点から安全に行えるよう助言・支援します。
他職種連携と情報共有
看護師はケア会議やカンファレンスに参加し、利用者のケアプランを共有します。他職種が記録した情報やリハビリ報告を確認し、必要に応じて看護計画を調整します。
ケアマネジャーや医師、介護士などチームメンバーと緊密に連携することで、一貫したケアを提供できるのが老健の特徴です。
夜間帯の見守りと緊急対応
夜勤時も看護師が常駐し、利用者の見守りを行います。夜間は利用者が転倒したり体調を崩すこともあるため、迅速に対応する必要があります。一方で重症急変が起こる頻度は病院ほど高くないため、比較的落ち着いて働けるのが老健の環境です。
病院と老健での看護業務の違い
病院(急性期病棟) | 老健(介護老人保健施設) | |
---|---|---|
患者の状態 | 重症・急性期が中心 | 状態安定・リハビリ中の高齢者 |
看護業務 | 高度な医療処置・緊急対応 | 日常ケア・バイタルチェックが中心 |
勤務時間 | 変則的・夜勤が多い | 比較的規則的・夜勤は少なめ |
環境 | 緊迫した雰囲気 | 穏やかで余裕のある環境 |
学べること | 専門性の高い看護技術 | 高齢者ケアやチームワーク |
老健の看護師に必要なスキルと資格
老健で看護師として働くには、当然ながら看護師免許が必要です。実務経験が浅い新人も採用されていますが、高齢者医療や介護保険制度の基礎知識があるとスムーズに業務に慣れます。
さらに、介護職と連携する場面が多いため、介護関連の基本知識やリハビリの進め方を理解していると役立ちます。
看護師資格と高齢者医療の知識
老健では看護師が少数で幅広い業務を担当するため、以前の病院経験で得た看護知識を総動員する場面が多いです。
加えて、高齢者特有の疾患(認知症、骨粗鬆症、慢性疾患など)について予備知識があると安心です。
一般の病棟での経験で培った医学知識や看護技術は、老健でも十分に活かせます。
認知症ケアやコミュニケーション能力
老健の利用者は認知症の方も多く、円滑にコミュニケーションをとるための工夫が必要です。
ゆっくりとした話し方や穏やかな表情を使うなど、認知症ケアの基本技術が求められます。また、介護職と協働する際はお互いに状態をきちんと伝え合い、連携できるコミュニケーション能力が欠かせません。
判断力と柔軟な対応力
老健の現場では入居者の急変は少ないものの、日々の健康状態の変化に気づいた看護師が迅速に対応しなければなりません。
普段から観察を怠らず、異常を察知したら適切に対処する判断力が必要です。また、利用者の状態に応じてケア計画を柔軟に変更する対応力も求められます。
老健の看護師として感じるやりがい・メリット
老健で働く看護師には、利用者とじっくり向き合えるやりがいがあります。長期入所者が多いため、毎日同じ人を支えながら信頼関係を築き、少しずつ回復していく姿を見守れることは大きな魅力です。
また、急変や緊迫した状況が少ないため、病院よりもゆったりと仕事に取り組めます。
さらに、老健には以下のようなメリットもあります。
- 利用者の生活にじっくり寄り添える
- 急性期より体力負担が軽い
- ワークライフバランスが取りやすい
- 多職種連携で知識が広がる
利用者と信頼関係を築ける
老健の利用者は数ヶ月から数年単位で滞在するため、看護師も長期間関わることになります。
その結果、入所者やその家族と深い信頼関係を築きやすく、患者さんの改善を間近で感じられます。
回復に向けて一緒に取り組む過程にやりがいを感じる看護師は、老健で充実感を得られるでしょう。
穏やかな環境でじっくり看護できる
老健は病棟ほどの緊迫感がないため、一つひとつのケアを丁寧に行う余裕があります。
夜勤や残業も病院より少なめの施設が多いため、育児や趣味などプライベートとの両立がしやすいのもメリットです。
スタッフ同士で助け合いながら仕事ができるため、継続して長く働ける環境と言えます。
老健の看護師としての課題・注意点
老健での看護は安定している一方、病院看護とは異なる難しさもあります。高度な医療処置が少ないため、急性期で培ったスキルを活かしにくい面があります。
また、老健は看護師の人数が少数で一人ひとりの役割が大きいため、勤務中の負担や責任感が増すこともあります。以下では特に覚えておきたい注意点を紹介します。
急性期看護の経験が活かしにくい
老健では重篤な状態や急変対応の機会が少ないため、病院で培った集中ケアのスキルはあまり出番がありません。
外来のような変化の速い現場が好きだったり、高度な技術で患者を救う仕事にやりがいを感じる人は、老健では物足りなさを覚えるかもしれません。
利用者の看取りに向き合う場面
老健には長期入所者が多く、利用者の最期を看取る機会があります。
入所者の死亡率は病院より低い傾向ですが、時間をかけて家族と深く関わった分、死と向き合う重さが増します。
このような精神面での負担に備え、自己管理を意識することが大切です。
介護業務とのバランス
老健では多くの介護職がいますが、看護師自身も入浴介助や排泄介助などの身体介護を手伝うことがあります。
病院勤務と比べ介護業務の割合が増えるため、役割の違いや体力負担に戸惑う人もいるでしょう。
キャリアパスの違い
老健での勤務は安定しますが、認定看護師など専門的な資格を目指す場合、経験を積める分野に限りがあることがあります。
また、施設によって教育や研修体制の充実度に差があるため、転職前にキャリア形成をよく考える必要があります。
老健の看護師に向いていない人の特徴
老健看護師に向いている人がいれば、向いていない人もいます。急性期病棟のスピード感ある仕事を好む人や、疾患治療を深堀りしたい人は老健の雰囲気に物足りなさを感じるでしょう。
また、高齢者介護の業務に抵抗が強い人や、チームで働く協調性が苦手な人も老健ではストレスを抱えやすいです。ルーティンワークが苦痛に感じる人は、環境が変わりゆく病院勤務のほうが適しているかもしれません。
まとめ
介護老人保健施設で働く看護師は、高齢者の在宅復帰を支える重要な役割を担います。
老健は病院と異なり、利用者一人ひとりと長く関わりながら医療的ケアと生活支援を組み合わせる環境です。
したがって、高齢者介護やリハビリに興味があり、穏やかに利用者に寄り添える看護師が向いています。
一方で、急性期の高度医療に魅力を感じる人や高齢者への関わりに抵抗がある人は、老健の現場ではやりがいを見いだしにくいでしょう。
老健で働くメリット・デメリットや求められるスキルをしっかり理解し、自分の適性やライフスタイルに照らし合わせてキャリアを検討してみてください。