新人薬剤師1年目で「もう辞めたい…」と感じる人は少なくありません。
大学で学んだ知識と現場のギャップ、想像以上の業務量、先輩とのコミュニケーションの難しさなど、大きなプレッシャーの連続です。
実際に、調査では薬剤師の約3割が入職3年以内に退職するとされており、新人にとって辞めたい気持ちはごく自然なものだと言えます。
ここでは薬剤師1年目に辞めたいと思う主な理由と対処法を詳しく解説し、今後のキャリアについてのポイントもお伝えします。
現役薬剤師の体験や最新の業界データにもとづいて、1年目だからこその悩みとその乗り越え方をわかりやすくまとめました。
薬剤師1年目でも辞めたいと感じる5つの理由
新卒で薬剤師になって1年目の人が辞めたいと感じる背景には、さまざまなストレス要因があります。
最も大きいのは想像以上の業務量と責任の重さです。
調剤、最終監査、患者さんへの投薬説明に加え、在庫管理や電話対応、研修参加など、薬剤師に求められる業務は多岐にわたります。
とくに人手が不足している現場では、新人だからといって仕事量が軽くなるわけではなく、OJTが不十分なまま「即戦力」として扱われることも珍しくありません。
このような過酷な現場では、ミスを恐れながら業務をこなすうちに心身が疲弊し、限界を感じることがあります。
業務内容 | 具体的な業務例 |
---|---|
調剤 | 処方箋にもとづいて薬剤を調合・準備する |
監査 | 処方薬の種類や量、投薬方法などを最終確認する |
投薬 | 患者さんへ服薬指導や使用法を説明する |
その他 | 在庫管理や保険点数の入力、電話応対など |
また、職場の人間関係も大きなプレッシャーになります。
慣れない業務で質問したくても、先輩が常に忙しそうで声をかけづらかったり、叱責じみた指導に萎縮してしまうこともあります。
新人は教えてくれる人間関係が築かれるまでに時間がかかるため、「自分は歓迎されていないのでは」と感じてしまいがちです。
具体的には以下のような悩みが挙げられます:
- 質問しても教えてもらえず不安になる
- 陰口や厳しい言葉で落ち込む
- 同僚と打ち解けられず孤独を感じる
新しい職場で人間関係を一から築く難しさが、辞めたい気持ちを大きくするのです。
さらに、「理想と現実のギャップ」も辞めたい原因になります。
薬剤師になる前は「患者さんや医師から頼られる専門家になりたい」「知識を生かして社会貢献したい」と思っていた人も多いでしょう。
しかし実際は、複数の薬局・病院を渡り歩く患者さんに対して短時間の指導を繰り返したり、定型業務をこなす日々です。
想像していた姿との違いに大きなショックを受ける新人薬剤師は少なくありません。この「リアリティショック」によるストレスは自然なものですが、期待したやりがいを感じられないと仕事へのモチベーションは急速に下がります。
加えて、薬剤師の働き方はシフト制であることが多く、自由に休暇を取れないことも大きな悩みです。
新人のうちは「まずは先輩の希望を優先」という雰囲気があり、平日や連休にも希望どおり休めないケースがあります。
特に調剤薬局では祝日や年末年始なども開局していることが多く、「急な出勤依頼を断れない」「休みが取りづらい」という現実は心身ともに疲弊する原因になります。
最後に、「将来への不安」も見逃せません。
日々ぎっしり詰まった業務に追われ、自分の成長やキャリアパスが見えにくい状況では「このまま続けていていいのか」と不安になる瞬間があります。
新人薬剤師のうちは業務全体像を把握するのに時間がかかるため、今取り組んでいる仕事が将来どのように活かされるのかわかりにくいのです。
加えて、昇進や専門資格取得の道筋が見えない、結婚や出産後の働き方が不透明といった悩みも重なることで、将来への漠然とした不安が「辞めたい」という気持ちを募らせています。
新人薬剤師が辞めたい気持ちを乗り越える対処法
このように膨大な仕事量や人間関係などのプレッシャーが重なった結果、辞めたい気持ちが湧いてくるわけですが、それらを乗り越えるための対処法もいくつかあります。
まず大切なのは無理せず適度に休息をとることです。
薬剤師は医療職である以上「休んではいけない」と自分にプレッシャーをかけがちですが、体調を崩しては元も子もありません。
有給休暇を取って仕事を完全に離れる日を設けたり、休日や就寝前のリラックスタイムをきちんと確保しましょう。日々の業務がひと段落したら軽い運動や趣味で気分転換するのもおすすめです。
- 毎日最低7~8時間の睡眠を確保する
- 休診日や定休を利用して連休を取得
- 運動や趣味でストレス発散
次に大切なのは相談できる相手を持つことです。同僚や先輩薬剤師、上司はもちろん、薬剤師以外の家族や友人に話してみるだけでも気持ちは軽くなります。
職場の外部には、薬剤師向けの相談窓口やオンラインコミュニティもありますし、キャリアカウンセラーに相談してみるのも手です。
一人で抱え込まず、信頼できる人に自分の辛さを共有することで、新たな視点や具体的なアドバイスを得られることがあります。
- 先輩や同期と悩みを共有する
- 専門家やキャリアアドバイザーに相談
また、小さな成長にも目を向けることも有効です。
「調剤ミスを減らせた」「患者さんから感謝された」といった日々の成功体験を記録しておくと、自信につながります。
日記やメモに「今日できるようになったこと」を書き留め、振り返る習慣を持つと自分の成長が実感できます。
- 毎日の業務でできたことをメモする
- 1週間ごとに成長度合いを振り返る
さらに、勤務先が提供する研修制度やサポートを活用しましょう。
多くの薬局・病院では新人向け研修やOJTプログラム、外部の研修講座への参加補助などがあります。自分で学習計画を立ててeラーニングやセミナーを受けるのもよいでしょう。知識・技術が向上すれば業務の見通しが立ち、精神的な余裕が生まれます。
- オンライン講座やセミナーを活用して学び直す
- 薬剤師会などの勉強会に参加する
それでも状況が変わらない場合は、勇気を出して環境を変えることも選択肢です。
薬剤師は人手不足が続いているため、転職市場でも需要が高い状況です。
同じ調剤薬局内での配置換えや病院の異動を打診したり、他の薬局や病院への転職を検討するのも一つの方法です。
また、調剤だけでなく製薬企業のMR(医薬情報担当者)や薬学コンサルタント、行政の薬事担当など、薬剤師資格を生かせる別職種を目指すケースもあります。
早い段階で自分に合った働き方を見つけることで、将来のキャリアビジョンを見直すきっかけになり得ます。
- 社内異動や転職サービスを利用して求人を探す
- 他資格を活かした職種も視野に入れる
薬剤師1年目で辞める前に考えてほしいこと
さて、辞める前にはいくつか注意点を確認しておきましょう。まず念頭に置くべきは、一般的に「1年目の退職は印象がよくない」と言われる点です。
採用担当者は長く勤める人材を好む傾向にあり、1年未満での離職歴は「継続力に欠ける」「またすぐ辞めるのでは」と懸念されがちです。
したがって、退職理由は感情的にならず前向きな表現に変換する必要があります。
例えば、「人間関係が合わない」という理由はなるべく避け、「新しい分野でスキルを磨きたい」「キャリアビジョンに挑戦したい」という言い方に言い換えましょう。
自己分析をしっかり行い、転職先でどう貢献できるかを具体的に話せる準備をします。
資格取得や業務改善の実績など、自分のポジティブな努力をアピールすることも大切です。
また、辞めた後に職歴の空白期間(ブランク)ができないように配慮しましょう。
できる限り退職日と次の就職時期を詰め、転職活動は在職中に進めるのが理想です。体調や精神面に不調が出ている場合は休職も一案ですが、その場合でも会社に相談して有給休暇や休職制度を活用し、復帰への道筋を明確にしたうえで次の計画を立てると安心です。
薬剤師1年目の転職・退職事情と注意点
薬剤師業界では、比較的転職しやすい側面があります。
求人倍率自体は高めで、たとえ経験が浅くても資格を持っていれば再就職のチャンスはあります。
ただし1年目での退職は前述の通り人事にネガティブな印象を与えやすいため、事前準備が重要です。
万が一退職する場合は、以下のポイントに気をつけましょう。
- 前職での学びや成果を整理して話せるようにする
- なぜ薬剤師を目指したのかなど初心を改めて説明できる準備
- 結局薬剤師の仕事に未練があるなら継続のメリットを考える
- 面接時はポジティブな言葉で未来志向の意思を伝える
また、転職活動にあたっては信頼できるエージェントに相談するのも有効です。
薬剤師業界に精通したエージェントは、1年目の早期離職でも理解してくれる求人を紹介してくれます。
退職・転職は「辞める=失敗」ではなく、自分に合った職場を見つけるための選択肢と考えるケースも増えています。
まとめ
薬剤師1年目で「辞めたい」と感じる理由には、仕事量の多さ、人間関係、理想と現実のギャップ、シフトの過酷さ、将来への漠然とした不安など、さまざまな背景が隠れています。
こうした悩みは必ずしもあなた一人だけのものではなく、多くの新人が同じ経験をしています。
まずは自分を責めず、適度に休息を取りながら信頼できる人に相談することが重要です。そして、必要ならば環境を変えることもひとつの策です。
退職する場合はポジティブな理由で説明し、将来のビジョンや学習意欲をしっかり示しましょう。
1年目の経験はキャリアの大切なスタートラインです。自身の健康と成長を最優先に考え、後悔のない選択をしてください。